■「どこに住んでいるの?」と聞かれて困る日々
「で、今はどこに住んでるの?」
最近、こう聞かれると少し考えてしまう。
厳密には、どこにも「住んでいない」。——正確に言えば、拠点はあるけど「定住」はしていないのだ。
1年前まで、私は都内のワンルームで暮らしていた。
24時間営業のジムが徒歩1分、コンビニが3つ、駅まで5分。何も不便はなかった。でも——何かが“閉じて”いた。
■きっかけは、友人の一言だった
「ねぇ、ずっと同じ場所にいると、感性が鈍るよ」
ノマド生活をしていた友人が放ったこの言葉が、私の頭に深く刺さった。
彼女は荷物をバックパック1つにまとめ、月に1〜2回、住む街を変えていた。
それってただの旅じゃないの?と思ったけど、違った。
彼女は「旅している」のではなく、「流れながら暮らしている」のだった。
■試しに1ヶ月、「定住」をやめてみた
思い切って、自分もやってみた。
家を解約し、荷物をレンタル倉庫に預け、MacBookと衣類だけ持って最初に向かったのは、長野県・安曇野。
澄んだ空気と川のせせらぎ。朝のパン屋の香り。
1週間もいると、体内の「都市時計」が静かに狂い始めた。
■「定住」をやめて得られた5つのもの
1. 五感が生き返った
街を変えると、当たり前だと思っていた音や香り、風が違う。
旅先ではなく「生活先」として接すると、五感が研ぎ澄まされてくる。
2. モノへの執着が消える
移動のたびに「持てる荷物」が試される。
お気に入りの本も「また買える」と思えば手放せる。
“モノを持たない自由”は、思っていたより軽やかだった。
3. 人との出会いが濃くなる
「何日かしかいない」とわかっているから、誰かと出会ったら、話す時間が濃密になる。
いつか、じゃない。“いま”話しておきたい——そんな気持ちが強くなる。
4. 意外とお金がかからない
家賃+光熱費がゼロ。
代わりに、ゲストハウスや民泊の“生活費”は発生するが、選び方によっては月7〜8万円に収まる。
5. 予定にしばられなくなる
「来週どこにいるの?」と聞かれても、「それ、風が決めるから」と言える心地よさ。
■「仕事はどうしてるの?」という質問に答えると
フリーランスでライターをしている私は、Wi-Fiと電源があれば基本的にどこでも仕事ができる。
最近では、コワーキングスペースも地方に増えてきたし、カフェでも十分だ。
重要なのは、「働けるかどうか」ではなく「集中できる環境を自分で見つける力」。
■不安がなかったわけではない
当然ながら、不安もあった。
・体調を崩したときにどうするか
・荷物が足りなくてストレスにならないか
・住所不定だと公的手続きがしにくい——など。
けれど、やってみて気づいたのは、不安の9割は“想像”だったということ。
実際は、住民票だけ残しておけばほとんどの手続きは可能だし、薬局やオンライン診療も使える。
むしろ、「柔軟に対応する力」が身についた気がする。
■現代は“住まい方”すら選べる時代
「定住」はかつて、安心・安定の象徴だった。
けれど、今は選択肢の一つでしかない。
移動しながら暮らすこと。
「家を持たない」こと。
「毎日同じ道を歩かない」こと。
これらが、必ずしも“落ち着かない”ではなく、“心地よい”と感じる人も増えてきた。
■そして、今。
この記事を書いている今、私は岡山県の港町にいる。
朝は海辺をランニングし、昼は図書館で仕事し、夜は地元の魚をいただく。
来週は、北海道の帯広に向かう予定だ。
定住をやめて、「人生が広がる」感覚がある。
もし今、どこか閉塞感を感じているなら、こう問いかけてみてほしい。
「自分が本当に住みたいのは、どこだろう?」
もしかしたら、“答えは1つじゃない”かもしれない。